世界メンタルヘルスデー2026|当事者の声を生かす職場の相談体制づくり

世界メンタルヘルスデーに、支え合う人々を表すイラスト
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世界メンタルヘルスデー2026で考えたい「声を聴いた後」

毎年10月10日は世界メンタルヘルスデーです。WHOが公表した2026年のテーマは「Lived experiences heard: real voices, real change」。当事者の声を聴き、実際の変化につなげる、という趣旨です。精神的な健康課題を経験した人の声を紹介するだけでなく、政策や支援の企画・実施・評価に関わってもらうことが重視されています。

本記事では、この考え方を参考に、企業が相談体制と職場改善を見直す方法を提案します。以下の5手順はWHOが企業に義務づけたものではなく、職場実務への応用例です。

職場でも、従業員アンケートやストレスチェック、相談窓口を設けるだけでは十分とは限りません。相談しても何も変わらない、誰に伝わるか分からない、話したことで評価へ影響しそうだと感じる職場では、制度があっても利用されにくくなります。

重要なのは、従業員の経験や意見を安全に受け取り、必要な範囲で職場の仕組みを変え、変えた内容を本人たちへ返すことです。

「当事者の声を生かす」とは病歴を聞き出すことではない

WHOのテーマでいう当事者の経験は、精神的な健康課題や必要なケア・支援を自ら経験した人の知見を指します。職場では、その経験を持つ人の任意の参加を大切にしながら、相談窓口の使いにくさや仕事の負担について、他の従業員の意見も併せて集める方法が考えられます。

ただし、会社が従業員へ病名、治療歴、服薬内容、休職経験の開示を求めることが、当事者参加ではありません。本人が話したくないことを話さなくても、次のような意見は集められます。

  • どこへ相談すればよいか分かりにくかった
  • 上司以外の相談先が必要だった
  • 面談後に何が会社へ伝わるのか不安だった
  • 業務量を相談しても具体的な調整につながらなかった
  • 復職後の配慮を見直す時期が曖昧だった
  • 周囲に知られず相談できる方法がほしかった

相談制度の改善で確認したいのは個人の病歴そのものではなく、どの仕組みが利用しにくく、どこを変えると早期相談や就業継続につながるかです。これは、個別の就業配慮のために必要な健康情報を確認する場面とは分けて考えます。個別の情報収集は、法令上の根拠、目的、本人の同意等を整理したうえで、必要な範囲に限って行います。

企業が取り組みたい5つの手順

1.現在の相談経路を一覧にする

まず、従業員が利用できる相談先を整理します。

  • 直属上司
  • 人事・労務担当者
  • 産業医・保健師等
  • 社内または社外の相談窓口
  • ハラスメント相談窓口
  • 公的な相談窓口

窓口が複数あっても、対象、利用方法、受付時間、会社への報告範囲が分からなければ利用しにくくなります。「困ったら相談してください」だけでなく、相談内容ごとの入口を分かりやすく示します。

2.個人が特定されにくい意見収集方法を用意する

職場の課題を把握する方法は、個別面談だけではありません。

  • 匿名アンケート
  • ストレスチェックの集団分析
  • 衛生委員会・安全衛生委員会での意見聴取
  • 研修後の匿名質問
  • 休職・復職支援を終えた後の任意アンケート
  • 相談窓口の利用傾向を個人が分からない形で集計する

人数の少ない部署では、属性を細かく分けるほど個人が推測されやすくなります。集計単位や共有範囲を事前に決め、回答しないことによる不利益がないことも伝えます。

3.集まった声を具体的な改善へ変える

意見収集後は、「相談が少なかった」「ストレスが高かった」で終わらせず、改善策へ落とします。

例えば、

  • 上司への相談に偏っているなら、産業医や外部窓口へ直接つながる経路を示す
  • 長時間労働が課題なら、業務量、締切、人員配置、勤務間の休息を見直す
  • 管理職の対応にばらつきがあるなら、声のかけ方と人事へのつなぎ方を教育する
  • 復職時の不安が多いなら、復職判定、試し出勤、配慮の見直し時期を明文化する
  • 守秘への不安が多いなら、誰が何を知るのかを説明する

個人のセルフケアだけを求めず、仕事の進め方や相談制度にも目を向けます。

4.「何を変えたか」を従業員へ返す

意見を集めても、その後の説明がなければ「答えても意味がない」と感じられます。

個別の相談内容を公開する必要はありませんが、次の事項を共有すると、意見が組織運営へ反映されていることが伝わります。

  • アンケートで多かった課題
  • 会社として優先する改善項目
  • 実施した対策
  • 今後の確認時期
  • すぐには実施できない事項と理由

5.一度で終わらせず効果を確認する

相談窓口を新設しただけで利用しやすくなったとは限りません。数か月後に、認知度、利用しやすさ、管理職の対応、職場環境の変化を確認します。

相談件数が増えた場合も、単純に職場が悪化したとは限りません。これまで表面化しなかった相談が早期に届くようになった可能性があります。件数だけでなく、相談から対応までの時間、適切な窓口へつながったか、同じ課題が繰り返されていないかを見ます。

管理職に求めるのは診断ではなく「気づいて、つなぐ」こと

管理職が従業員の病名を判断したり、治療内容を詳しく聞いたりする必要はありません。

確認したいのは、

  • 遅刻、欠勤、残業、ミスなど勤務上の変化
  • 業務量や役割で困っていること
  • 安全に関わる業務を続けられる状態か
  • 本人が人事や産業医への相談を希望するか

です。

「最近元気がないから病院へ行ってください」と決めつけるのではなく、「最近、残業が続いていますが、仕事の負担で困っていることはありませんか」のように、確認できる事実から声をかけます。

管理職向けには、相談を受けた後の連絡先、緊急時の対応、情報共有の範囲までセットで示すことが重要です。

健康情報は必要な人へ必要な範囲だけ共有する

相談しやすい職場づくりには、情報管理への信頼が欠かせません。

産業医面談の内容を上司や人事へすべて伝えるのではなく、会社が就業上必要とする内容へ整理します。例えば、診断名や症状の詳細ではなく、

  • 一定期間は残業を避ける
  • 夜勤や運転業務を一時的に見直す
  • 通院のため勤務時間を調整する
  • 数週間後に再評価する

といった就業上の意見です。

相談前に、誰が情報を受け取り、何が会社へ共有される可能性があるかを説明します。情報の取扱いは法令と社内の取扱規程に沿って整理し、本人同意が必要な情報は同意を得ます。「どんな場合も絶対に共有しない」と約束せず、生命・身体の保護など例外的な対応が必要になる場合も、共有範囲を必要最小限にします。

「4つのケア」を一つの仕組みとして動かす

厚生労働省の指針では、職場のメンタルヘルス対策として、セルフケア、ラインによるケア、事業場内産業保健スタッフ等によるケア、事業場外資源によるケアを組み合わせる考え方が示されています。

従業員の声を生かす際も、どれか一つへ責任を集中させないことが重要です。

  • 本人が不調へ気づき相談できる
  • 管理職が業務上の変化へ気づき適切につなぐ
  • 人事・産業医等が就業上の対応を整理する
  • 必要に応じて医療機関や外部相談機関へつなぐ

という流れを作ります。

職場で確認できるチェックリスト

  • 相談窓口の対象と利用方法を従業員が確認できる
  • 上司を通さず利用できる相談経路がある
  • 会社へ共有される情報の範囲を説明している
  • 匿名または個人が特定されにくい意見収集方法がある
  • 集めた意見を職場改善へつなぐ担当者と期限が決まっている
  • 改善内容を従業員へフィードバックしている
  • 管理職が相談を受けた後の対応手順を知っている
  • 産業医や外部資源へ相談できる経路がある
  • 相談制度を定期的に評価している

産業医は相談体制と就業上の対応をつなぐ役割を担う

産業医は治療を行う主治医とは異なり、健康状態と仕事内容の関係を確認し、必要な就業上の配慮について会社へ意見を述べます。

個別面談だけでなく、相談経路の設計、管理職教育、衛生委員会での検討、ストレスチェック集団分析後の職場改善などについて助言することもできます。

相談制度は「窓口を置いたか」ではなく、必要な人が安心して利用でき、具体的な改善へつながったかで評価することが重要です。

まとめ

世界メンタルヘルスデーを一日の啓発で終わらせず、従業員の経験を職場の仕組みへ反映する機会にします。

本人に病歴の開示を求めるのではなく、相談しにくかった理由、必要だった支援、改善してほしい仕事上の課題を安全に受け取ります。そして、相談経路、管理職対応、業務設計、情報管理を見直し、その結果を従業員へ返します。

声を聴くことと、職場を変えることを一つの流れにすることが、継続的なメンタルヘルス対策につながります。

関連記事とご相談

相談を受ける管理職の対応は管理職のラインケア、情報共有の範囲は産業医面談の守秘義務と会社への報告、実施後の運用はストレスチェック後の事後対応で詳しく整理しています。

企業の相談体制や職場改善については、北陸こころとからだ産業支援センターへのお問い合わせからご相談ください。フォームには従業員個人の病名・診断書などの健康情報を入力しないでください。

参考資料

情報確認日:2026年9月20日。WHOのテーマの説明と、本記事による職場実務への提案を区別しています。

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