【2026年8月改正】産業医の辞任・解任・退任も報告対象に|企業の対応手順

届出書類とカレンダーを前に手続きを確認する人事担当者の手元

長く契約していた産業医から契約を更新しないと連絡があった、産業医が高齢を理由に退任することになった、担当医師が異動になった——産業医が交代する場面は、どの企業にも起こります。これまでは、産業医を新しく選任したときに労働基準監督署へ報告していましたが、辞めたときの報告までは求められていませんでした。2026年(令和8年)8月1日から、この扱いが変わっています。

目次

2026年8月1日から変わったこと

労働安全衛生規則の一部を改正する省令(令和8年厚生労働省令第86号。令和8年4月28日公布)により、労働安全衛生規則(以下「安衛則」)第13条に第5項が新設され、令和8年8月1日から施行されています。産業医が辞任・解任・退任したときに、事業者が所轄労働基準監督署長へ報告することが新たに義務づけられました。

場面 2026年7月31日まで 2026年8月1日から
産業医を選任したとき 所轄労働基準監督署長へ報告(安衛則第13条第2項) 変更なし
産業医が辞任・解任・退任したとき 労働基準監督署への報告義務なし 遅滞なく所轄労働基準監督署長へ報告(安衛則第13条第5項)
産業医が辞任・解任したとき 遅滞なくその旨と理由を衛生委員会等へ報告(安衛則第13条第4項) 変更なし

新設された安衛則第13条第5項は、次のように定めています。

事業者は、法第十三条第一項の規定により選任した産業医の辞任等があつたときは、遅滞なく、電子情報処理組織を使用して、次に掲げる事項を、所轄労働基準監督署長に報告しなければならない。ただし、当該報告は、後任者の選任に係る第二項の規定による同項第一号及び第七号に掲げる事項の報告をもつて、これに代えることができる。

労働安全衛生規則第13条第5項(e-Gov法令検索、2026年8月17日確認)

「辞任」「解任」「退任」の使い分け

安衛則第13条第2項第7号は、この3つをまとめて「辞任等」と定義しています。ただし、それぞれの語について法令上の定義は置かれておらず、厚生労働省の通達やリーフレットにも定義の記載はありません。実務では、次のように整理しておくと社内の説明がしやすくなります。以下は法令上の定義ではない点にご注意ください。

  • 辞任:産業医の側から契約や委嘱の終了を申し出た場合
  • 解任:事業者の側から委嘱を解く場合
  • 退任:契約期間や任期の満了などにより職務を終える場合。個別の区分は契約内容と終了の経緯を確認する

報告が必要かどうかは、この使い分けでは変わりません。3つのいずれであっても、安衛則第13条第5項の報告対象です。

一方で、用語の違いが実際に効いてくる場面があります。衛生委員会等への報告を定めた安衛則第13条第4項は「産業医が辞任したとき又は産業医を解任したとき」と規定しており、条文上「退任」は含まれていません。労働基準監督署への報告と衛生委員会への報告では、対象となる場面がそろっていないことを押さえておいてください。

また、安衛則第14条第4項は、産業医が勧告・指導・助言をしたことを理由として、産業医に対し解任その他不利益な取扱いをしないようにしなければならないと定めています。解任を検討する場面では、この規定にも留意が必要です。

誰が・いつまでに・何を報告するか

項目 内容 根拠
報告する者 事業者 安衛則第13条第5項
報告先 所轄労働基準監督署長 同
期限 遅滞なく 同
対象事業場 産業医の選任義務がある事業場(常時50人以上の労働者を使用する事業場) 基発0428第4号
報告事項 労働保険番号/事業の種類・事業場の名称・所在地・電話番号/常時使用する労働者数/報告年月日/辞任等があった産業医の氏名及び辞任等の年月日 安衛則第13条第5項各号
報告方法 電子情報処理組織を使用する方法(電子申請)が原則 同
書面の可否 当分の間、経過措置として書面による報告も可能 基発0428第4号

後任の選任報告と同時に出せば、辞任等の報告は不要

安衛則第13条第5項にはただし書きがあります。後任の産業医の選任報告(同条第2項)に、第1号(労働保険番号など)と第7号(前任者の氏名および辞任等の年月日)を記載して提出すれば、辞任等の報告に代えることができます。厚生労働省のリーフレットも、新たな産業医の選任と前任者の辞任等を同時に報告した場合は辞任等の報告は不要である旨を示しています。

後任の選任は事由発生日から14日以内

産業医の選任は、選任すべき事由が発生した日から14日以内に行う必要があります(安衛則第13条第1項第1号)。厚生労働省のリーフレットでも、辞任等があった場合は当該日から14日以内に新たに産業医を選任する必要があるとされています。

辞任等の報告は「遅滞なく」、後任の選任は「事由発生日から14日以内」と、別の要件です。14日以内なら報告を待ってよいという意味ではありません。後任を速やかに選任して同時報告できる場合は前任者の情報を併記します。同時報告の見通しが立たない場合は、辞任等の報告を先に行い、後任の選任も並行して進めます。

書面で報告する場合の様式

通達(基発0428第4号)は、書面による報告を行う場合、じん肺法施行規則等の一部を改正する省令(令和6年厚生労働省令第45号)第5条により削除された廃止前の安衛則様式第3号を用いることが可能であるとしています。

産業医が交代するときの実務の流れ

  1. 産業医から辞任・退任の申し出を受けた、または解任を決めた。日付を記録する
  2. 辞任・解任の場合は、遅滞なくその旨と理由を衛生委員会または安全衛生委員会へ報告する(安衛則第13条第4項)
  3. 後任の産業医を探す。選任は事由発生日から14日以内
  4. 健康診断結果、面接指導の記録、就業配慮の内容、職場巡視の指摘事項などの引継ぎ範囲と方法を決める
  5. 後任が決まったら、選任報告に前任者の氏名と辞任等の年月日を記載して所轄労働基準監督署長へ電子申請する
  6. 同時報告の見通しが立たない場合は、14日を待たず辞任等を遅滞なく報告する。後任の選任期限とは別に管理する

引継ぎで抜けやすいもの

産業医の交代は、行政への報告だけでは終わりません。次の情報は健康情報を含むため、引継ぎの範囲・方法・保管を事業場の健康情報取扱規程に沿って決めてから進めます。健康診断結果や病歴など、要配慮個人情報にあたる情報を含むため、「前任から後任へ一式そのまま渡す」といった扱いにしないでください。

  • 就業配慮を行っている従業員の配慮内容と、配慮を見直す予定時期
  • 復職支援中の従業員の支援プランと次回面談の予定
  • 長時間労働者・高ストレス者に対する面接指導の実施状況と、未実施のまま残っている案件
  • 健康診断の有所見者への対応状況と、医師の意見聴取の記録
  • 職場巡視で指摘され、まだ改善していない事項
  • 衛生委員会で産業医が継続審議としていた議題

報告漏れを防ぐチェックリスト

  • 産業医の契約期間と更新時期を一覧にしているか
  • 辞任・解任・退任の日付を記録しているか
  • 辞任・解任の場合、衛生委員会または安全衛生委員会へ報告したか
  • 後任の選任期限(事由発生日から14日)を担当者のカレンダーに登録したか
  • 電子申請を行うアカウントと担当者を決めてあるか
  • 選任報告の前任者欄を記載したか(同時に報告すれば辞任等の報告は不要)
  • 引継ぎ資料の受け渡し方法を健康情報取扱規程で確認したか

罰則について

今回の改正に関する厚生労働省の通達(基発0428第4号)およびリーフレットには、報告を怠った場合の罰則についての記載はありません。そのため本記事でも、罰則の内容や金額を断定することは避けます。行政への報告義務である以上、期限内に提出することを前提に社内の運用を組んでください。個別の判断が必要な場合は、所轄の労働基準監督署へご確認ください。

よくある質問

産業医が退任しましたが、後任がまだ決まりません。報告はどうすればよいですか

後任が決まっていなくても、辞任等の報告は「遅滞なく」行う必要があります。報告を省略できるのは、後任の選任報告と同時に前任者の情報を提出する場合だけです(安衛則第13条第5項ただし書き)。並行して、事由発生日から14日以内に後任を選任する必要があります。期限に間に合わないおそれがある場合も、報告と後任探しを止めず、所轄の労働基準監督署へ相談してください。

契約期間の満了で産業医が交代する場合も報告が必要ですか

必要です。省令は「辞任、解任又は退任」をまとめて「辞任等」として報告対象にしています。どの理由で職務が終了したかによって報告の要否は変わりません。

衛生委員会への報告と、労働基準監督署への報告は別のものですか

別のものです。衛生委員会または安全衛生委員会への報告(安衛則第13条第4項)は、産業医が辞任したとき、または産業医を解任したときに、その旨と理由を報告するものです。労働基準監督署長への報告(同条第5項)は、辞任・解任・退任のいずれの場合も対象で、産業医の氏名と辞任等の年月日などを報告します。

電子申請ができない場合はどうすればよいですか

通達(基発0428第4号)は、当分の間の経過措置として、書面による報告も可能としています。書面の場合は、廃止前の安衛則様式第3号を用いることが可能とされています。厚生労働省の主要様式ダウンロードコーナーで様式を確認できます。

労働者数が50人未満の事業場も報告が必要ですか

安衛則第13条第5項は「法第13条第1項の規定により選任した産業医」を対象としています。法第13条第1項は、常時50人以上の労働者を使用する事業場に産業医の選任を義務づける規定です。50人未満の事業場が任意で産業医と契約している場合は、この選任義務に基づく選任ではないため、この報告義務の対象ではありません。また、労働者数が50人未満になって選任義務がなくなった場合の辞任等も、通達では報告義務はない一方、選任状況の把握のため報告が望ましいとされています。判断に迷う場合は、所轄の労働基準監督署へご確認ください。

まとめ

2026年8月1日から、常時50人以上の労働者を使用する事業場では、産業医の辞任・解任・退任があったときに所轄労働基準監督署長への報告が必要になりました。実務上のポイントは3つです。辞任等の日付を記録しておくこと、事由発生日から14日以内に後任を選任すること、そして後任の選任報告に前任者を併記すれば辞任等の報告を別途出さずに済むことです。辞任・解任の場合は、衛生委員会等への報告も忘れないでください。

産業医の選任義務そのものの考え方は従業員50名の壁とは?産業医選任の条件と罰則で、50人未満の事業場が任意で産業医と契約する場合の考え方は従業員50人未満でも外部産業医を活用するメリットで整理しています。交代後の産業医と従業員がどのように関わるかは産業医面談では何を話す?守秘義務・会社への報告範囲・面談の流れもあわせてご覧ください。

北陸こころとからだ産業支援センターでは、産業医の受託と産業保健体制づくりのご相談をお受けしています。対応地域・受託範囲はサービス案内をご確認ください。産業医の交代にあたって引継ぎの範囲や届出の進め方に迷う場合は、富山県で産業医をお探しの企業へをご覧いただくか、お問い合わせからご相談ください。

参考にした公的資料

情報確認日:2026年9月13日(厚生労働省通達・リーフレット・労働局案内を再確認)。制度の運用は変更される場合があります。手続きの詳細は所轄の労働基準監督署へご確認ください。

目次