従業員50人未満でも外部産業医を活用するメリット|任意契約が役立つ5つの場面

「うちは従業員50人未満だから産業医は要らない」。この認識自体は法令上まちがっていません。しかし、産業医の選任義務がないことと、健康管理の責任がないことは別の話です。
健康診断の実施義務、長時間労働者への面接指導、そして安全配慮義務は、事業場の規模にかかわらず会社に残ります。さらに2028年4月からは、50人未満の事業場にもストレスチェックが義務化されます。
この記事では、50人未満の事業場に求められることを整理したうえで、無料で使える公的な支援と、外部産業医との任意契約が実際に役立つ場面を人事向けに解説します。
50人未満の事業場に関する法令上の整理
産業医の選任は義務ではないが、努力義務がある
労働安全衛生法では、常時50人以上の労働者を使用する事業場について、産業医を選任して労働者の健康管理等を行わせることが事業者に義務づけられています。労働者数50人以上3,000人以下で1名以上、3,001人以上で2名以上です。
一方、労働者数50人未満の事業場については産業医の選任義務はありませんが、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識を有する医師等に、労働者の健康管理等の全部または一部を行わせるように努めなければならないこととされています。厚生労働省令では、この「医師等」に、健康管理等を行うのに必要な知識を有する保健師も含まれます。
規模にかかわらず残る義務
選任義務がなくても、次のような対応は50人未満の事業場にも求められます。
- 雇入時健康診断・定期健康診断の実施
- 健康診断の結果に基づく医師の意見聴取と、必要な就業上の措置
- 長時間労働者からの申出に応じた医師の面接指導と事後措置
- 労働契約上の安全配慮義務
ここで詰まりやすいのが「医師の意見聴取」です。健康診断結果に有所見があったとき、その人を通常勤務のままでよいのか、残業や夜勤を制限すべきかは、健診機関の判定だけでは決まりません。職場の業務内容を踏まえた就業判定が必要になります。この事後措置の流れは、春の定期健康診断は「受けた後」が重要!産業医による事後措置と就業判定の実務で詳しく解説しています。
2028年4月からストレスチェックが義務化される
2025年5月に公布された改正労働安全衛生法により、労働者数50人未満の事業場にもストレスチェックの実施が義務化されます。施行は令和10年(2028年)4月1日です。
これまで50人未満の事業場では当分の間の努力義務でしたが、50人以上の事業場と同様の義務になります。実施者の確保、高ストレス者への面接指導、集団分析といった体制を、施行までに整えていく必要があります。
まず使いたい無料の公的支援
費用をかけずに使える窓口があります。契約を検討する前に、ここを知っておくと判断しやすくなります。
地域産業保健センター(地産保)
全国350か所に設置され、労働者数50人未満の小規模事業場を対象に、長時間労働者や高ストレス者に対する医師の面接指導等の産業保健サービスを無料で提供しています。健康診断結果についての医師からの意見聴取や、個別訪問による産業保健指導にも対応しています。
産業保健総合支援センター(産保センター)
47都道府県に設置され、ストレスチェック制度を含むメンタルヘルス対策についての相談対応や、事業場への訪問による制度導入支援などを無料で提供しています。
その他
- ストレスチェック制度サポートダイヤル(0570-031050、平日10時〜17時)
- こころの耳(厚生労働省の委託事業。制度の解説や取組事例、相談窓口)
- 小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアルと、編集できるモデル社内規程例
- 団体経由産業保健活動推進助成金(事業主団体等が傘下の中小企業へ産業保健サービスを提供する費用の一部を助成)
これらで足りる場面は少なくありません。単発の面接指導や、制度を立ち上げる段階の相談であれば、まず公的支援を使うのが現実的です。
外部産業医との任意契約が役立つ5つの場面
一方で、公的支援は申込みごとの単発利用が基本で、自社の事情を継続的に把握してもらう形にはなりにくい面があります。次のような場面では、任意契約を検討する価値があります。
1. 健康診断の有所見者への就業判定が続いているとき
血圧や血糖の数値が高い従業員に、運転業務や高所作業、夜勤を続けさせてよいか。この判断には、検査値だけでなく実際の業務内容と勤務形態の理解が要ります。毎年の健診のたびに判断が必要なら、職場を知っている医師が継続して関わるほうが早く、判断も安定します。
2. メンタル不調による休職・復職の判断が発生したとき
主治医の診断書に「復職可」と書かれていても、その職場のその業務を安全に続けられるかは別の判断です。休職前の状況、業務の負荷、復職後の配慮内容を一貫して把握している医師がいると、復職の可否判断と就業配慮の設計がしやすくなります。判断の流れは職場復帰支援の5つのステップ、休職開始時の手順はメンタルヘルス不調で休職するときにまとめています。
3. 治療と仕事の両立支援に取り組むとき
がんや脳卒中などの治療をしながら働く従業員への配慮では、主治医の意見を職場の業務に翻訳する役割が必要になります。厚生労働省のガイドラインも、産業医等がいない場合は主治医から提供を受けた情報を参考にするとしていますが、業務内容を踏まえた検討には専門的な助言が有効です。両立支援の具体的な進め方は、治療と仕事の両立支援|本人同意と就業配慮をどう進めるかで解説しています。
4. 2028年のストレスチェック義務化に備えるとき
実施者、実施事務従事者、高ストレス者への面接指導、結果の取扱規程、集団分析の活用まで、決めることは少なくありません。施行直前にまとめて整えるより、健診の就業判定などと合わせて段階的に体制をつくるほうが負担は分散します。実施後の事後対応の考え方は、ストレスチェックの「やりっぱなし」を防ぐ事後対応にまとめています。
5. ハラスメント相談や長時間労働が続いているとき
相談を受けた従業員の心身の状態を確認したり、労働時間の実態を踏まえて職場環境への助言を得たりする場面では、社外の医学的な視点が判断の支えになります。ハラスメント相談を受けたときの初動は、ハラスメント相談を受けたとき|初動対応・記録・メンタルヘルスへの配慮で解説しています。産業医は、労働者の健康を確保するため必要と認めるときは、事業者に対して必要な勧告を行うことができる立場です。長時間労働者への面接指導の具体的な流れは、長時間労働者への医師面接指導|月80時間超の対象者・企業対応・事後措置を参照してください。
契約を検討するときの確認事項
契約形態や費用は提供者によって幅があります。金額だけで比較せず、次の点を確認しておくと、契約後の食い違いを減らせます。
- 訪問の頻度と、オンライン対応の可否
- 健診結果の就業判定を何件まで含むか
- 面接指導(長時間労働者、高ストレス者、休復職)の対応範囲
- 衛生委員会や社内研修への関与の有無
- 健康情報の受け渡し方法と保管の取り決め
- 緊急時の連絡手段と応答の目安
選任義務のない規模では、月1回の職場巡視のような法定の要件に縛られる必要はありません。自社で困っている場面に絞って関わってもらう設計も可能です。
50人未満の産業保健についてのよくある質問
50人未満なら健康診断も任意ですか
いいえ。雇入時健康診断と定期健康診断は、規模にかかわらず実施義務があります。結果に基づく医師の意見聴取と必要な就業上の措置も求められます。
従業員が50人を超えたらどうなりますか
常時50人以上になった時点で、産業医と衛生管理者の選任、衛生委員会の設置、ストレスチェックの実施などが義務になります。選任には期限があり、所轄の労働基準監督署への報告も必要です。境目に近い事業場は、超える前に体制を検討しておくと慌てずに済みます。詳しくは従業員50名の壁とは?産業医選任の条件と罰則で解説しています。
地域産業保健センターだけでは足りませんか
場面によります。単発の面接指導や制度の相談であれば無料の公的支援で対応できます。一方、毎年の就業判定や、休復職の判断が繰り返し発生する場合は、継続して関わる医師がいるほうが判断は安定しやすくなります。
何人くらいから契約を考えるべきですか
人数だけで決まるものではありません。夜勤や運転業務、高所作業など健康状態が安全に直結する業務があるか、休復職や長時間労働の案件が実際に起きているかで、必要性は変わります。
まとめ
50人未満の事業場に産業医の選任義務はありませんが、健康管理を医師等に行わせる努力義務があり、健康診断・面接指導・安全配慮義務は規模にかかわらず残ります。2028年4月にはストレスチェックも義務化されます。
まずは地域産業保健センターや産業保健総合支援センターの無料支援を使い、就業判定や休復職の判断が繰り返し発生するようであれば、継続して関わる外部産業医との契約を検討する。この順番で考えると、必要な範囲から無理なく体制を整えられます。
参考情報
北陸こころとからだ産業支援センターの産業医・産業保健支援をご確認ください。具体的なご相談は、お問い合わせフォームから承っています。
