発達特性のある従業員への職場配慮|困りごとを整理する対話の進め方

「何度説明しても指示が伝わらない」「予定の抜け漏れが続く」——管理職からこうした相談が人事に届いたとき、「発達障害ではないか」という言葉が出てくることがあります。
しかし、人事が最初にすべきことは診断名を推測することではありません。本人が実際にどの業務場面で困っているかを一緒に整理し、仕事を進めやすくする工夫を決めていくことです。
この記事では、発達特性のある従業員について、診断の有無にかかわらず使える「困りごとを整理する対話」の進め方と、合理的配慮の法的な枠組み、健康情報の取り扱いを人事向けに解説します。
「発達特性」と「診断」は分けて考える
発達特性という言葉は、注意の向け方、情報の受け取り方、感覚の感じ方、段取りの立て方などの個人差を広く指す言い方として使われます。特性があること自体が、そのまま医学的な診断を意味するわけではありません。
人事や上司が本人の様子から診断名を推測したり、「診断を受けてください」と一方的に伝えたりすることは避けます。診断は医師が行うものであり、業務上の必要から医療へつなぐ場合も、産業医や社内の健康管理担当を通して進めます。管理職が変化に気づいた段階での声のかけ方は、管理職のラインケア|「いつもと違う」に気づいたときの声かけと対応で解説しています。
一方で、診断がついていなくても、仕事の進め方を工夫することで支障が減ることは多くあります。人事が扱うのは「診断」ではなく「業務上の困りごと」だと整理しておくと、対応が進めやすくなります。
職場配慮の法的な位置づけ
合理的配慮は事業主の義務
障害者雇用促進法では、雇用の分野における障害を理由とする差別が禁止され、事業主には合理的配慮を提供する義務があります。平成28年4月から施行されている枠組みで、募集・採用時と採用後の両方が対象です。
採用後の合理的配慮は、障害のある労働者と障害のない労働者との均等な待遇の確保、または本人の能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するための措置とされています。ただし、事業主に過重な負担を及ぼす場合は除かれます。
なお、雇用の場面については障害者差別解消法ではなく障害者雇用促進法が適用されます。2024年4月に民間事業者へ義務化されたのは、雇用以外の分野における合理的配慮です。
対象になるのは手帳がある人だけではない
合理的配慮の対象となる障害者は、障害者手帳を持っている人に限られません。身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)その他の心身の機能の障害があるため、長期にわたり職業生活に相当の制限を受け、または職業生活を営むことが著しく困難な人が対象です。
一方で、事業主が必要な注意を払っても労働者が障害者であることを知り得なかった場合には、採用後の合理的配慮の提供義務違反は問われないとされています。だからこそ、相談窓口を周知し、本人が申し出やすい状態をつくることが実務上重要になります。
診断が確認できない場合の考え方
診断や手帳が確認できない従業員について、会社が法的な合理的配慮の対象かどうかを独自に判定する必要はありません。業務上の支障があるなら、業務改善・労務管理として同じ工夫を検討すれば足ります。
指示を明確にする、手順書を用意する、静かな環境を用意するといった工夫は、特定の従業員だけでなく職場全体の働きやすさにもつながります。
困りごとを整理する対話の進め方
厚生労働省の合理的配慮指針は、採用後の手続を「支障となっている事情の有無等の確認」「措置の内容に関する話合い」「合理的配慮の確定」の流れで示しています。実務では、これに記録と見直しを加えた4段階で進めると運用しやすくなります。
1. 支障となっている事情があるか確認する
まず、本人に対して職場で支障となっている事情がないかを確認します。指針では、雇入れ時までに障害を把握している場合は雇入れ時までに、途中で把握した場合は遅滞なく確認することとされ、状態や職場の状況は変化するため、必要に応じて定期的に確認することも求められています。
確認は個別面談だけでなく、全従業員への一斉メール、書類の配付、社内報などで申し出を呼びかける方法も想定されています。特定の人だけを呼び出す形にしないほうが、本人の負担は小さくなります。
2. 具体的な業務場面に分解する
「コミュニケーションが苦手」「ミスが多い」といった漠然とした表現のままでは、配慮の内容を決められません。どの業務の、どの手順で、何が起きているかまで具体化します。
- 口頭で複数の指示を受けたとき
- 締切が複数重なったとき
- 電話と作業を同時に行うとき
- 予定が急に変更されたとき
- 音や照明が強い環境で作業するとき
本人が希望する措置を具体的に言えない場合もあります。指針では、その場合は支障となっている事情を明らかにすることで足りるとされており、会社側から実施可能な措置を示して話し合う方法が示されています。
3. 配慮の内容を一緒に決める
話合いを踏まえ、本人の意向を十分に尊重したうえで、実際に講じる措置を決めます。複数の選択肢があるときは、本人と相談のうえ、より提供しやすい措置を選ぶことも認められています。
希望された措置が過重な負担にあたると判断した場合は、実施できないことを本人に伝え、求めがあれば理由を説明します。そのうえで、過重な負担にならない範囲で別の措置を検討します。
過重な負担にあたるかどうかは、事業活動への影響の程度、実現困難度、費用・負担の程度、企業の規模、企業の財務状況、公的支援の有無を総合的に勘案し、個別に判断するとされています。「前例がない」「他の人と違うから」という理由だけで断らないよう注意します。
4. 記録し、見直す時期を決める
決めた内容、開始日、担当者、次に振り返る時期を記録します。配慮は一度決めて終わりではなく、業務内容や体調の変化に合わせて見直すものです。3か月後などの目安を先に決めておくと、変更の申し出もしやすくなります。
対話で使える質問例
- 今の業務で、いちばん時間や手間がかかっている作業はどれですか
- 指示は口頭とテキストのどちらが受け取りやすいですか
- 予定が変わったとき、どのタイミングで知らされると助かりますか
- 集中しやすい時間帯や場所はありますか
- これまでに、うまくいったやり方はありますか
原因や生育歴を掘り下げる質問ではなく、業務の進め方に焦点を当てるのが基本です。
職場でよく使われる配慮の例
厚生労働省の合理的配慮指針の別表では、発達障害のある労働者について、採用後の例として次のような措置が挙げられています。
- 業務指導や相談に関し、担当者を定めること
- 業務指示やスケジュールを明確にし、指示を一つずつ出すこと
- 作業手順について図等を活用したマニュアルを作成すること
- 出退勤時刻・休暇・休憩に関し、通院・体調に配慮すること
- 感覚過敏を緩和するため、サングラスの着用や耳栓の使用を認めること
- 本人のプライバシーに配慮した上で、他の労働者に対し、障害の内容や必要な配慮等を説明すること
これらはあくまで例示です。指針でも、配慮は個々の状態や職場の状況に応じて提供されるもので、多様性があり個別性が高いとされています。同じ診断名でも必要な配慮は異なります。
人事が避けたい対応
- 本人の様子から診断名を推測して伝える
- 受診や検査を強く求める
- 診断名だけを根拠に業務内容を一律に決める
- 本人の同意なく、診断名や特性を職場へ広く共有する
- 配慮の希望を「特別扱いになる」という理由だけで断る
- 決めた配慮を記録せず、担当者が変わると引き継がれない
- 本人が困っていないことまで先回りして取り上げる
健康情報の取り扱いと職場への説明
診断書、面談記録、通院状況などは要配慮個人情報にあたる機微な情報です。厚生労働省の指針でも、心身の状態に関する情報は取扱規程を定め、取り扱う範囲と担当者を明確にすることが求められています。
上司や同僚へ伝えるのは、業務運営に必要な範囲に限ります。診断名ではなく、「指示は文書で出す」「電話対応は担当を分ける」といった、行動として実行できる内容に翻訳して共有すると、本人の情報を必要以上に広げずに済みます。
共有の範囲は本人と事前に打ち合わせ、誰に何を伝えるかを決めておきます。相談したことを理由に不利益な取扱いをしてはならないことも、就業規則や社内周知で明確にしておきます。相談を受けた側の初動については、ハラスメント相談を受けたとき|初動対応・記録・メンタルヘルスへの配慮もあわせてご覧ください。体調不良により休職へ至った場合の手続きは、メンタルヘルス不調で休職するとき|人事が最初に整える手順と連絡方法を参照してください。
発達特性と職場配慮のよくある質問
診断がない従業員から配慮を求められました。応じる必要はありますか
法的な合理的配慮に該当するかどうかの判定を急ぐ必要はありません。業務上の支障が確認できるなら、労務管理上の工夫として検討します。判断に迷う場合は産業医へ相談します。産業医面談で何が話され、どこまで会社へ伝わるのかは、産業医面談では何を話す?守秘義務・会社への報告範囲・面談の流れにまとめています。
本人が「配慮は不要」と言っています
本人の意向は尊重します。ただし、安全に関わる支障がある場合は、配慮の押しつけではなく業務手順の見直しとして会社側で対応します。
他の従業員から「不公平だ」と言われました
配慮は特別扱いではなく、支障を取り除いて同じ土俵で働けるようにするための措置です。個人の情報を明かさずに、「業務手順は人によって調整することがある」と全体へ説明する形が現実的です。
他社の配慮事例はどこで確認できますか
厚生労働省の合理的配慮指針事例集や、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の障害者雇用リファレンスサービスで、実際の事例を確認できます。個別の対応に迷う場合は産業医や産業保健総合支援センターへ相談します。
まとめ
発達特性のある従業員への職場配慮は、診断名から始めるものではありません。どの業務場面で何に困っているかを本人と一緒に整理し、指示の出し方、手順の示し方、作業環境、連絡方法を具体的に調整していきます。
合理的配慮は事業主の義務ですが、内容は個別性が高く、話合いによって決めるものです。決めた内容は記録し、定期的に見直します。健康情報は必要最小限の範囲で扱い、職場への共有は本人と合意した内容にとどめます。
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