治療と仕事の両立支援|本人同意と就業配慮をどう進めるか

二人が書類を並べて内容を確認している様子と卓上カレンダー

「がんの治療を続けながら働きたい」「脳卒中から復帰したい」——こうした申出を受けたとき、人事担当者は就業を続けさせてよいのか、どこまで配慮すべきかの判断に迷います。

治療と仕事の両立支援は、メンタルヘルス不調による休職対応とは、始まり方も必要な情報も少し異なります。私傷病であるため本人の申出が起点になり、主治医から就業に関する情報を得たうえで、産業医の意見を踏まえて就業上の措置を決めます。メンタルヘルス不調で休職する場合の初動については、メンタルヘルス不調で休職するとき|人事が最初に整える手順と連絡方法で解説しています。

この記事では、厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」(令和6年3月版)をもとに、本人同意の扱い方、情報のやりとりの手順、就業配慮の決め方を人事向けに解説します。

目次

両立支援が対象とする疾病と、対応が必要な理由

対象は「長く付き合う病気」

ガイドラインが対象とするのは、がん、脳卒中、心疾患、糖尿病、肝炎、その他難病など、反復・継続して治療が必要となる疾病です。短期で治癒する疾病は対象としていません。雇用形態にかかわらず、すべての労働者が対象です。発達特性など、疾病以外の事情による職場配慮の考え方は、発達特性のある従業員への職場配慮|困りごとを整理する対話の進め方で解説しています。

診断技術や治療方法の進歩により、かつて「不治の病」とされていた疾病でも生存率が向上し、通院しながら働き続ける人が増えています。入院日数は短くなり、外来で治療を受けながら仕事を続ける形が一般的になってきました。

会社が取り組む位置づけ

労働安全衛生法では、健康診断の実施と、医師の意見を勘案した就業上の措置(就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少など)が事業者に義務づけられています。

疾病を抱える労働者を就労させると判断した場合、業務によって疾病が悪化しないよう就業上の措置や治療への配慮を行うことは、労働者の健康確保対策として位置づけられます。ガイドラインは、仕事の繁忙などを理由に必要な措置や配慮を行わないことがあってはならないと明記しています。

起点は「本人の申出」

治療と仕事の両立支援は私傷病に関わるものなので、本人から支援を求める申出があったことを端緒に取り組むのが基本です。会社が病気を探しにいく仕組みではありません。

だからこそ、申し出やすい環境づくりが実務の要になります。ガイドラインは、環境整備として次を挙げています。

  • 事業者としての基本方針と事業場内ルールを作成し、全労働者へ周知する
  • 当事者になり得るすべての労働者と管理職へ、研修等で意識啓発を行う
  • 相談窓口と、申出があった場合の情報の取扱いを明確にする
  • 休暇制度・勤務制度を整備する

制度があっても知られていなければ使われません。日頃から制度と相談窓口を周知し、管理職には申出を受けた際の対応方法を研修しておくことが望まれます。

健康情報は本人の同意なく取得しない

症状や治療の状況は機微な個人情報です。ガイドラインは、労働安全衛生法に基づく健康診断において把握した場合を除き、事業者が本人の同意なく取得してはならないとしています。

主治医へ直接問い合わせる、家族から聞き出すといった対応を、同意なく行うことはできません。健康診断や本人の申出で把握した健康情報についても、取り扱う者の範囲を限定し、第三者への漏洩防止を含めた情報管理体制を整える必要があります。

情報のやりとりと就業配慮の決め方

1. 本人が勤務情報を主治医へ提供する

本人が、会社の様式を使って自分の仕事の情報を主治医へ渡します。職種、職務内容、作業の負荷(重作業、長時間立位、暑熱・寒冷場所での作業、高所作業、車の運転、対人業務、出張など)、勤務形態、勤務時間、通勤方法と通勤時間、休業可能期間、利用できる制度などを記載します。

人事や産業保健スタッフは、本人が必要十分な情報を集められるよう、書面の作成支援や手続きの説明を行うことが望まれます。

2. 主治医から就業に関する意見をもらう

本人が主治医から受け取る情報は、次の4点です。

  • 症状、治療の状況(現在の症状、入院・通院の必要性と期間、治療のスケジュール、通勤や業務遂行に影響しうる症状や副作用)
  • 退院後・通院治療中の就業継続の可否に関する意見
  • 望ましい就業上の措置に関する意見(避けるべき作業、時間外労働の可否、出張の可否など)
  • その他の配慮が必要な事項(通院時間の確保、休憩場所の確保など)

令和6年3月版では、本人が主治医へ勤務情報を提供し、その情報に基づいて主治医が就業上の意見を示す「治療と仕事の両立支援カード」の様式例が追加されました。ただし、会社がカードの記載どおりに配慮を実施する法的義務を伴うものではないとされています。

主治医から提供された情報が両立支援の観点から十分でない場合は、本人の同意を得たうえで、産業医等や産業保健スタッフが主治医からさらに情報を集めることもできます。これらの担当者がいない場合は、本人の同意を得たうえで人事労務担当者が行うこともできます。

3. 産業医等の意見を聴く

会社は、集めた情報を産業医等へ提供し、就業継続の可否、就業上の措置、治療への配慮について意見を聴きます。産業医等がいない場合は、主治医から提供を受けた情報を参考にします。産業医面談の位置づけや会社へ共有される情報の範囲は、産業医面談では何を話す?守秘義務・会社への報告範囲・面談の流れにまとめています。

4. 会社が判断し、本人と話し合って決める

主治医と産業医等の意見を勘案し、就業継続の可否、措置の内容、実施時期を検討します。その際、就業継続の希望や配慮への要望を本人から聴き、十分な話合いを通じて了解が得られるよう努める必要があります。

ガイドラインは、疾病に罹患していることをもって安易に就業を禁止するのではなく、配置転換や作業時間の短縮などによって就業の機会を失わせないようにすることに留意すべきとしています。

両立支援プランに書くこと

就業を続けられると判断した場合、必要に応じて「両立支援プラン」を作ります。盛り込むことが望ましいのは次の3点です。

  • 治療・投薬等の状況と、今後の治療・通院の予定
  • 就業上の措置と治療への配慮の具体的内容、実施時期・期間(作業の転換、労働時間の短縮、就業場所の変更、定期的な休暇の取得など)
  • フォローアップの方法とスケジュール(産業医、保健師・看護師等の産業保健スタッフ、人事労務担当者による面談など)

治療の経過によって必要な配慮は変わります。適時状況を確認し、内容を見直します。治療の終了と同時にすぐ通常勤務へ復帰できるとは限らない点にも留意が必要です。

使える休暇・勤務制度

  • 時間単位の年次有給休暇(労使協定を結べば1時間単位で付与可能。上限は1年で5日分)
  • 傷病休暇・病気休暇(事業者が自主的に設ける法定外の休暇。取得条件や賃金の扱いは会社ごとに異なる)
  • 時差出勤制度
  • 短時間勤務制度(育児・介護休業法に基づく制度とは別のもの)
  • 在宅勤務(テレワーク)
  • 試し出勤制度

周囲への説明でつまずかないために

配慮を実施すると、同僚や上司にも一時的に負荷がかかります。ガイドラインは、措置や配慮を実施するために必要な情報に限定したうえで、負荷がかかる同僚や上司には可能な限り情報を開示して理解を得るとともに、過度の負担がかからないようにすることを求めています。

診断名を伝えるのではなく、「今月は週1回の通院がある」「残業は当面免除する」といった、業務調整として実行できる内容に翻訳して共有します。共有の範囲は本人と事前に決めておきます。ハラスメント相談など他の機微な情報を扱う場面でも、同じ考え方が使えます(ハラスメント相談を受けたとき|初動対応・記録・メンタルヘルスへの配慮)。

治療後の経過が思わしくないとき

病状が悪化して業務遂行が困難になる場合もあります。本人の意向も考慮しつつ、主治医や産業医等の意見を求め、就業継続の可否を慎重に判断します。

主治医や産業医等が、労働のため病勢が著しく増悪するおそれがあるとして就業継続は困難であると判断した場合、会社は労働安全衛生法第68条に基づき就業禁止の措置を取る必要があります。ただしこれは、配置転換や作業時間の短縮などを検討したうえでの最終的な判断です。

障害が残る場合は、期間を限定せずに就業上の措置を続ける必要が生じることもあります。疾病が再発することも念頭に置き、再発した際には状況に合わせて改めて検討します。

相談できる窓口

  • 産業保健総合支援センター(各都道府県):専門の相談員による相談対応、事業場への個別訪問指導、本人と会社の間の調整支援
  • がん診療連携拠点病院のがん相談支援センター
  • 難病相談支援センター
  • 両立支援コーディネーター:本人の同意のもとで治療や業務の情報を整理し、関係者の連携を支える

治療と仕事の両立支援のよくある質問

本人が病名を言いたがりません

病名そのものより、就業継続の可否と必要な配慮が判断できるかが重要です。勤務情報を主治医へ渡し、就業上の意見を返してもらう仕組みを使えば、詳細な病名を会社が把握しなくても配慮を検討できる場合があります。

主治医が「就業可」と書いていれば、そのまま働かせてよいですか

主治医の意見は重要な材料ですが、職場の実際の業務内容や勤務制度を踏まえた判断は産業医等の役割です。両方の意見を勘案して会社が判断します。長期の休業から復帰する場合の進め方は、職場復帰支援の5つのステップ|復職可否・支援プラン・就業配慮を参照してください。

配慮はいつまで続けますか

両立支援プランに期間と見直し時期を書き、治療の経過に合わせて見直します。期限を決めずに続けると、本人にも職場にも負担が残りやすくなります。

産業医がいない50人未満の事業場ではどうしますか

主治医から提供を受けた情報を参考にします。判断に迷う場合は、地域の産業保健総合支援センターへ相談することもできます。

まとめ

治療と仕事の両立支援は、本人の申出から始まり、本人の同意を前提に情報をやりとりします。勤務情報を主治医へ渡し、就業に関する意見を受け取り、産業医等の意見を踏まえて会社が措置を決め、両立支援プランに残して定期的に見直す。この流れを社内ルールとして整えておくことが実務の近道です。

健康情報は必要最小限の範囲で扱い、周囲への説明は業務調整として実行できる内容にとどめます。制度を作るだけでなく、相談窓口と手続きを日頃から周知しておきましょう。

参考情報

北陸こころとからだ産業支援センターの産業医・治療と仕事の両立支援をご確認ください。具体的なご相談は、お問い合わせフォームから承っています。

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