健康診断を受けない従業員への対応|受診勧奨と会社の義務

春の定期健康診断が終わってしばらく経つのに、受診記録が空欄のままの従業員が数名いる。督促のメールは出したが反応がない。下半期に入る前に片づけたいが、どこまで求めてよいのか分からない。
健康診断の未受診は、担当者が声をかけにくいテーマです。しかし、実施義務は会社にあり、未受診のまま放置すると、法令上の問題だけでなく、体調の変化に気づく機会そのものを失うことになります。
この記事では、健康診断を受けない従業員がいるときの会社の義務と、実務での進め方を整理します。
健康診断は会社と本人の双方に義務がある
会社側の実施義務
労働安全衛生法第66条に基づき、事業者は労働者に対して医師による健康診断を実施しなければなりません。常時使用する労働者への雇入時の健康診断と、1年以内ごとに1回の定期健康診断が基本です。
深夜業を含む業務など、労働安全衛生規則第13条第1項第2号に掲げる業務に常時従事する労働者については、配置替えの際と6月以内ごとに1回、特定業務従事者の健康診断を行います。
本人側の受診義務
あわせて、労働者は事業者が行う健康診断を受けなければならないとされています。健康診断は福利厚生ではなく、法令上の義務として位置づけられています。
ただし、会社が指定した医師による健康診断を受けることを希望しない場合は、他の医師による同等の健康診断を受け、その結果を証明する書面を会社へ提出することで代えることができます。「会社の指定先では受けたくない」という理由であれば、この方法を案内できます。
実施後に会社が行うこと
- 健康診断個人票の作成と保存(第66条の3)
- 異常の所見がある労働者について、医師からの意見聴取(第66条の4)
- 医師の意見を勘案した就業上の措置(第66条の5)
- 結果の本人への通知(第66条の6)
- 必要な労働者への保健指導(第66条の7)
- 定期健康診断結果報告書の労働基準監督署長への提出(常時50人以上の事業場)
未受診者がいると、この一連の流れがその人だけ止まります。就業上の措置の判断材料がないまま働き続けてもらうことになり、安全配慮の面でも不利になります。受診後の事後措置の進め方は、春の定期健康診断は「受けた後」が重要!産業医による事後措置と就業判定の実務で解説しています。
受診しない理由を先に把握する
督促を重ねる前に、なぜ受けていないのかを確認します。理由によって、会社ができる対応が変わります。
- 時間が取れない:繁忙期と重なっている、シフトの都合がつかない、受診できる時間帯が限られている
- 受診先の都合:指定先が遠い、予約が取れない、通いにくい
- 結果を知られたくない:会社にどこまで伝わるか分からない、就業に影響するのではないかという不安
- 検査そのものへの抵抗:採血や胃部検査が苦手、過去に苦痛だった
- 治療中で必要性を感じない:すでに通院しており、同じ検査を受ける意味が分からない
特に3つ目の「結果を知られたくない」は、督促を強めるほど受診から遠ざかります。この場合は、健康情報を誰がどの範囲で扱うのかを説明することが先になります。
実務の進め方
1. 受けやすい環境を整える
- 受診期間を長めに設定し、複数の日程・会場を用意する
- 受診時間を勤務時間として扱うかを明確にし、周知する
- シフト勤務者や直行直帰の多い職種に、個別の受診方法を案内する
- 費用負担の範囲を明示する
「案内は出したのに受けない」と見える状況の多くは、受けにくさが残っているだけです。
2. 健康情報の取扱いを説明する
健康診断の結果は要配慮個人情報にあたる機微な情報です。会社が取り扱う目的、取り扱う担当者の範囲、上司へ伝える内容の限度、保管方法を、案内の段階で示します。
上司へ伝わるのは診断名や検査値そのものではなく、就業上必要な措置に限られること、健康診断を受けたこと自体で不利益な取扱いをしないことを、あらかじめ伝えておきます。健康情報がどこまで会社へ共有されるのかは、産業医面談では何を話す?守秘義務・会社への報告範囲・面談の流れを案内すると伝わりやすくなります。
3. 個別に案内する
全体メールだけで終えず、未受診者へは個別に案内します。責める形ではなく、受診できていない事情を確認し、日程や受診先の調整を提案する形にします。
「会社にも本人にも法令上の義務があること」は事実として伝えますが、それだけを繰り返すより、受けられる方法を一緒に探すほうが結果につながります。
4. 他の医師の健康診断でもよいことを伝える
すでに通院している、人間ドックを自分で受けているといった場合は、法定の項目を満たす健康診断を受けて結果を証明する書面を提出してもらう方法を案内します。項目が不足している場合は、不足分だけを受けてもらう形も検討できます。治療を続けながら働く方への就業配慮は、治療と仕事の両立支援|本人同意と就業配慮をどう進めるかで解説しています。
5. 記録を残す
案内した日、方法、本人の回答、提案した調整内容を記録します。会社が実施義務を果たすために働きかけた経過が残ります。
やりがちだが避けたい対応
- 全体メールの督促だけを繰り返す
- 未受診者の氏名を朝礼や掲示で共有する
- 受診しない理由を確認せずに、就業規則違反として扱う
- 「受けないなら評価に響く」と伝える
- 結果を上司へそのまま回覧する
- 本人の同意なく、家族へ連絡する
受診の勧奨と、懲戒などの処分の話は切り分けて考えます。処分の可否は個別事情や就業規則の定めによるため、判断が必要な場合は社内の規程と専門家の確認を経てください。この記事は一般的な情報であり、個別の法的判断を示すものではありません。
健康診断の未受診についてのよくある質問
パートやアルバイトも対象ですか
常時使用する労働者が対象です。所定労働時間などによって判断が分かれるため、自社の雇用実態に照らして確認してください。判断に迷う場合は労働基準監督署や社会保険労務士へ相談します。なお、常時50人以上になると産業医の選任などが義務になります(従業員50名の壁とは?産業医選任の条件と罰則)。50人未満の事業場で使える支援は、従業員50人未満でも外部産業医を活用するメリットにまとめています。
本人が「受けたくない」と明確に言っています
まず理由を確認します。指定先が理由であれば他の医師による受診を案内し、結果を知られたくないという不安であれば健康情報の取扱いを説明します。それでも受診しない場合は、案内の経過を記録し、対応方針を社内で検討します。
結果を提出してくれません
他の医師の健康診断で代える場合は、結果を証明する書面の提出が必要であることを伝えます。提出がなければ、会社は実施義務を果たしたことになりません。
受診時間は勤務時間になりますか
一般健康診断の受診時間の扱いは、労使で協議して定めることが望ましいとされています。特殊健康診断とは扱いが異なるため、自社の規程を確認し、事前に周知しておくと混乱を避けられます。
まとめ
健康診断は会社の実施義務であると同時に、労働者にも受診義務があります。未受診者がいる状態は、医師の意見聴取や就業上の措置といったその後の流れが止まることを意味します。
督促を強める前に、受けていない理由を確認し、日程や受診先の調整、健康情報の取扱いの説明、他の医師による受診の案内といった具体的な選択肢を示すことが実務の近道です。案内の経過は記録に残しておきましょう。
参考情報
北陸こころとからだ産業支援センターの産業医・健康診断支援をご確認ください。具体的なご相談は、お問い合わせフォームから承っています。
